コロナ終息に向けて:各国レポート(8)コロンビア

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今後もまだ不確実な中南米

ゴンサロ・ロブレド

私はコロンビア人のジャーナリストで、1981年から日本で暮らし、主にスペイン語圏諸国のメディア向けに、記事や映像で日本のニュース・文化を紹介しています。本記事では、南米の新型コロナウイルス禍に関するレポートをお届けします。自分の体験ではありませんが、中南米、特にコロンビアがこの事態をどう受け止めているか、ニュースや知人から入手した情報を簡単にお伝えしたいと思います。

中南米全域を見渡してみると、コロナのパンデミックに対し、2通りの反応がありました。大半の国はパンデミックを恐れて何らかの対策を取りましたが、ブラジルやメキシコやニカラグアのように、ウイルスの脅威を軽視して向こう見ずな対応をした国もあります。

ブラジルのボルソナーロ大統領は「新型コロナウイルスはちょっとした風邪だ」と言い放ち、メキシコのオブラドール大統領は、外出自粛宣言以降も自分の支持者たちにハグやキスをしてまわりました。5月の2週目時点で、ブラジルでは1万人以上、メキシコでも3,000人以上の死者が出ています。この2か国が中南米のなかでも際立って高い死者数を記録しているのは偶然ではないでしょう。今年の3~4月期の世界の死者数を前年と比較したニューヨークタイムズ紙の調査では、ブラジルやメキシコでの死者数は、実際はもっと多く、これからも増加するだろうと指摘されています。

さらに、その調査によると、エクアドルでは死者数が2か月で84%増加しています。インフラや医療システムが整備されていない同国の貧しい地域では、遺体の収容が間に合わず、人々はコロナが原因で死亡した家族の遺体にビニールをかぶせて、家の前の道路に放置せざるを得ない状態にあるといいます。急遽つくられた共同墓地に毎日トラックで運び込まれる棺も、埋葬する人手が足りないので、感染を防ぐためにラップが巻かれて安置されているそうです。

一方コロンビアでは、国連が世界中に呼びかけたコロナ禍での休戦要請に応じ、ゲリラ組織ELNが武器を置きました。ELNは、2016年に政府と別のゲリラ組織FARCが52年ぶりに和平合意に至った際も、停戦協定に加わることなく活動を続けてきた組織です。

また、ウイルスの危機に対する保守派政権のイバン・ドゥケ大統領と、首都ボゴタの市長を務める中道左派のクラウディア・ロペスの対応の違いが際立っています。ロペス市長は、ボゴタ市初の女性市長であると同時に、初のレズビアンの市長でもあります。3月6日に最初の感染者が発表されると、市長は4日間の厳しい「外出禁止訓練」を実施しました。これは、大統領がようやく国内全土に外出禁止令を出す1週間ほど前のことです。

ロペス市長はまた、マスクの着用を義務づけ、違反した人には法定最低賃金に等しい金額(約2万6千円)の罰金を科しています。市長は当初、偶数日・奇数日に分けて性別による外出許可制を計画しました。トランスジェンダーの人は、どちらの性別の日に外出するかを自分で選べます。しかし、パンデミックの危機管理でただでさえ多忙な警察官に負担をかけてしまうということで、このこのルールは取りやめになりました。

ボゴタの家庭では、食事の習慣が大きく変わりました。家族が揃って食事をするようになり、自宅でアレパという伝統的なパンを焼く人が増えたそうです。アレパとはトウモロコシの粉でつくるパンですが、これまでは出来合いのものを買ってくる家庭がほとんどでした。コロナ禍がいつまで続くかわからないため、ボゴタの人たちはこれまで食べていたファストフードやスナックをやめて、長期保存が可能で栄養価が高いレンズ豆やインゲン豆といった豆類をたくさん買うようになったといいます。広大で肥沃な土地をもつコロンビアですが、米国との通商条約により、国内の農産物は安い米国産の食料に市場を奪われつつあります。野菜や豆が注目されることで、都会の人たちも、自国の農業の価値を改めて意識するようになったようです。

人口約5,000万人のコロンビアですが、感染者数は1万人、死者数500人という状況で、5月11日、ドゥケ大統領は段階的に商業の再開を認め、日常の生活に戻していくと発表しました。ロペス市長はそれに対し、「大統領の命令なら仕方がないが、その責任は大統領にとってもらう。私たちの責任は、注意を怠らないこと。これからは、一人ひとりがコロナウイルスに感染しているつもりで、厳しく注意深く行動しなければならない」と警鐘を鳴らしました。ロペス市長の支持率は89%にアップ。政治評論家たちは、市長と大統領の違いが「効果的な緊張感」を生み出しており、ひとりのリーダーによる間違った対策を回避でき、よりよい問題解決につながっていると評価しています。


ゴンサロ・ロブレド:コロンビア出身のジャーナリスト。スペイン語翻訳者。1981年より日本在住。スペインのエル・パイス紙に寄稿した記事:https://elpais.com/autor/gonzalo-robledo/