コロナ終息に向けて:各国レポート(15)ポーランド

poland

回復へ向かいはじめたポーランドより

岩澤葵

私は2年前から、ポーランド西部の地方都市にあるヴロツワフ音楽院に留学しています。3月上旬に一時帰国しましたが、すぐにポーランドに戻りました。すでに「自粛ムード」に包まれていた日本と比べると、そのころのポーランドの街はいつもと変わらず、のんびりと穏やかな雰囲気だったように思います。

しかし一週間後、ポーランドの状況は一気に変わりました。コロナ感染拡大にともない、私の学校では、校内中に消毒液が設置され、コンサートは軒並み中止。オーケストラの演習など、大人数の授業は休講になりました。「学校は閉鎖になると思うよ。きっとすぐに」そう言ったクラスメイトの言葉どおり、すぐに学校閉鎖が発表されました。それでようやく、ポーランドも他人事ではないんだな、と実感しました。

3月13日、モラヴィエツキ首相が記者会見を開いて「感染脅威事態」を宣言し、国境閉鎖と自宅隔離措置が感染拡大予防対策として開始されました。15日の午前0時からEU加盟国間の国境審査が再開し、外国人の入国は原則禁止。鉄道や飛行機の国際線はすべて停止され、陸路はドイツとの国境のみ、それも数か所の通行にかぎられました。政府の発表から国境封鎖まで実質2日もありませんでした。よって、自国に帰るための航空チケットを買い求めようと、多くの外国人が殺到しました。キャンセルになった便も多く、長距離バスなどで隣国へ出てから航空便を利用した人もたくさんいたそうです。

首相会見の翌日から自宅隔離措置が開始され、ポーランドの人びとの「自粛生活」がはじまりました。図書館、劇場、スポーツジムなどの公共施設はすべて閉まり、50人以上での集会、屋外での運動も禁止です。スーパーや薬局などの買い物は許可されたので、最低限の生活を続けることは難しくありませんでしたが、街からは人が消えました。私のルームメイトは実家に帰ってしまったので、私は部屋に一人残され、孤独との共同生活が静かに過ぎていくばかりでした。

そんななか、世界各地に取り残されたポーランド人を自宅に送り届ける”LOT DO DOMU(直訳:家への飛行機)”、通称「お家へ帰ろう便」もはじまりました。LOTポーランド航空と政府が協力し、自国民がポーランドへ帰れるように特別便を運行するという取り組みです。国境閉鎖から22日間で、71か所の空港へ388便もの特別便が飛び、5,500人以上のポーランド人が帰国しました。また、2,000人以上の外国人を現地に向かう便に乗せ、自国へと送り届けました。4月2日には日本へ向かう飛行機が飛び、ポーランドに残っていた日本人の帰国も実現しました。ポーランド人はもちろんのこと、国際線が運航停止しているポーランドからの出国も困難な状況のなか、多くの帰国希望者がこの「お家へ帰ろう便」で家族のもとへ戻ることができたのです。

政府は新型コロナウイルスの感染脅威事態における規制を、4つの段階を踏んで解除していく方針を決め、5月18日にはステップ3まで進みました。公共の場でのマスクの着用や、店内での手袋の着用義務は続いていますが、外出は許可され、ショッピングセンターやレストランなども再開しています。川辺や広場のベンチでくつろいだり、サイクリングやスポーツを楽しんだりする人びとのすがたが街に増えて、いつものポーランドらしい、穏やかで活気のある空気がやっと戻ってきました。

しかし、感染者数が減っているわけではありません。5月22日現在で、感染者数は合計20,143人。4月以降は一日に平均300人ほどの感染者が確認されています。ただ、感染者数が多いのは、検査数が多いということでもあります。感染が確認された患者と接触した人は、「接触濃度」に関わらず検査されます。そのなかには症状のない人もいます。

まだまだ予断を許さない状況ではありますが、ポーランドは少しずつ日常を取り戻しつつあると言えるでしょう。異国での私の自粛生活はもう少し続きそうですが、私と同じく帰国を見送った友人と励まし合い、希望を持って、毎日を過ごしています。日本にいる家族や友人にもたくさんのパワーをもらって、自分も日々まわりの人に支えられていることを実感しました。

いつか終わりはやってきます。声をかけあい、笑顔でこの状況を乗り越えましょう。


岩澤葵(いわさわ・あおい):クラリネット奏者。ポーランド・ヴロツワフ在住。ヴロツワフ音楽院修士課程在学中。